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© Eliyahu M. Goldratt, 2007
ある業界が既にTOC の解決策と同等のものを取り入れて操業しているとします。その場合、私たちにこれ以上提案できることはほとんどないのでしょうか?
先週、私は小麦・トウモロコシ製品を製造している比較的規模の大きな企業を監査に訪れました。この会社は、これらをバルクで他企業に原料として販売し、また500g~2.5kg 入りの個袋で小売業者に卸していますが、最も利益率の高い製品はパンです。これは8 ヶ所の大規模な製パン工場で製造され、全売上の30%を占めています。重要で利益率の高い製品の売上を増加させることは、利益率の低い製品の売上を増加させること以上に影響が大きいものです。2 年前にこの企業とご縁ができたときに私がパンに集中するように興味をもったのは当然でしょう。
パンは一般消費財製品ですから、TOC の中でも関係が深いのは流通ソリューションです。これは受注と配送の頻度を上昇させることにもとづいています。現状、私たちは週1 回、あるいは月1 回の頻度があたりまえであるような環境に慣れきってしまっています。経験上では、一般製品においては1 日1 回の配送頻度は商品を店頭に確保するために十分であり、1 日1 回以上に頻度を増やしても利便性や売上を増加させることはないということを私たちは知っています。けれど、パンは既に毎朝各店舗に配送されるようになっています。
現状でのパン配送の頻度の高さを考慮した場合、私たちにこれ以上どんな有意義な提案ができるでしょう。この方面は諦めて、会社のその他の製品、利益率が低く通常の受注・配送頻度の製品群に注意を向けるべきでしょうか。いえ、その前にもういちど考えてみることです。なぜパンは1 日1 回配送されるのでしょう。
それは、パンの販売可能期間が短いからです。
販売可能期間の短い製品の特徴は、鮮度が問題になるということです。軍隊時代の思い出話になりますが、「新しいパンをもらえないか」と炊事兵に頼んだことがあります。いつも答えは「今日焼いたパンが欲しいのかい。じゃあ明日おいで」というものでした。
そう、今日焼いたパンと昨日焼いたパンではずいぶん違うのです。そして、30 分前に焼き上がったほかほかのパンと2時間前に焼いたパンとでは、これまた違うわけです。けれど、2時間前に焼いた食パンと8時間前に焼いた食パンに違いがあるでしょうか。それほどでもありません。つまり、オーブンから直接出したパンを売るような方法を考え付かない限りは、消費者の視点から言えば、1 日1 回の配送が妥当な頻度だろうということに思えるわけです。
けれど、1 日1 回の配送が当社にとって最適であるという結論を出す前に、まず販売可能期間が短いということが小売業者にどのような影響を与えるか、少し考えてみてみましょう。今日店頭にあるものは明日には販売できない、売れ残りを全て廃棄に回さねばならないとします。いや、そこまで極端なシナリオではなく、今日店頭にあるものは明日には商品価値が下がる、1 日でも余分に店頭に置いたらそれで消費者の印象が悪くなるとしましょうか。
* この会社の製造するパンは、スライスで、ポリエチレン包装され、製品寿命は4 日と推定されています。賞味期限は「法律にもとづいて」個包装に明示されています。販売可能期間は2 日以上あり、消費者が賞味期限に敏感であるということからすれば、極端なシナリオではない後者の方がこの会社の状況にあてはまるといえるでしょう。
どちらの状況にあっても、小売店は店頭商品を切らさないようにしたいと思いながらも、売れ残り(1日以上前の製造日のもの)が事業に与える影響を考えなければなりません。となると想定されるのは、1日の需要が正確にわからない以上、小売店は安全側をとるようになり、その結果として閉店時刻近くには製品が売り切れている可能性が高いということになります。ということは、1 日1 回の配送頻度を高めることが売上の増加につながる可能性があるということです。
どのくらい増加するでしょう。
これは小売店がどの程度保守的であるかによって決まる関数です。閉店時刻近くになって店に入ったらまともなパンを見つけられるかどうかわからないという事実を意識すれば、配送を1 日2 回に増やすことで無視できないほどの売上をもたらす可能性があると私は推定しました。私の予想では品不足は主に午後に発生しますし、需要の大部分は午前中でしょうから、最大でも30%以上の売上増加は望めないと私は思いました。売上増が10%に達しないとしても驚くことではないとも思いました。
けれど、このように頻度を変えることは、コストにも影響します。これら製品の粗利は売上の40~50%であり、配送費は売上のわずか数%(2~5%)に過ぎません。従って、売上の増加が10%を越える限りは、会社が配送費を倍増させねばならないとしても、純利ではプラスの影響を得ることになるわけです。
* 午前中に品揃えをしておかねばならない使命が小売店にあるという意味で、パンは特異的な製品です。そのため、当社の製パン工場は戦略的に全国各地に配置されており、発送作業は全て2、3 時間内に済まされます。従って配送車は1 日のうちほとんどの時間は使用されていません。1 日2 回の配送を行っても、配送車を増やす必要は全くない可能性が高いわけです。
製造工程に関しては、需要を1 日2 回に分散させることはもっぱらプラスの影響を与えます。つまり、操業モードを1 日2 回の配送に変更することで、どれだけの売上増加が見込めるかということにかかってくるわけです。それが10%を越えるようならOK です。30%近くにもなるようなら素晴らしいことになります。
しかし、計算の早い方であれば、なぜ私が30%近くの売上の増加を素晴らしいなどというのか、不思議に思うことでしょう。つまり、この商品ラインは事業全体の30%に過ぎず、スループットが販売価格の50%であるというとき、製造ラインにおける30%の増加は収益を売上の0.3×0.3×0.5=5%しか押し上げません。この数字は、バイアブル・ビジョンに到達するために必要とされるものからは程遠く、とるにたらないものとみなされるべき程度のものでしかないからです。
実は、30%の増加が素晴らしいというのは、上記の分析のポイントが「想定されるのは、1 日の需要が正確にわからない以上、小売店は安全側をとるようになる」というところにあるからなのです。このセンテンスがバイアブル・ビジョンのためのポイントになり得るのだということを理解するには、1 日の需要を不確定なものにしている主な理由を検証してみればいいでしょう。
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