2006 年5月
「わかってる」とは決して言えない
© Eliyahu M. Goldratt, 2006

私がみんなにぜひ伝えたいと思うルールがひとつあるとすれば、「私たちが提案したソリューションの元になっているキーのデータをチェックし、そしてクロスチェックしてください」。ということです。先月のこと、私自身がこのルールから逸脱するような事例に直面してしまいました。もちろんその顛末は恥ずかしいものなのですが、それが理由でわざわざこの文書を認めようと筆をとったわけではありません(私はマゾヒストではないのです)。第一の理由は、分析をやり直すことで改めて、理解を深めることに限りはないのだな、と思い知らされたからです。私たちの行いは終わりのない旅であり、一歩一歩がわくわくする経験、そして報いのある経験なのです。

たぶん私がこの事例でパンチを喰らわされたのは、今回はスポーツ衣料製造を行っている会社だったからでしょう。裏の裏まで知り尽くしているよ、と私が思い込んでいた業界があるとすれば、それはアパレル業界に他なりませんでした。しかし実際には、分析をやり直した結果、1 つならず3 つまでも新たな知見を得ることになりました。これら新たな発見の真価は、既にこの数週間でそれを他の2 つの事例に応用することができたという事実から明らかでしょう。

詳しくはこういうことです。この会社の売上の85%は「ブランド」企業への販売です。けれど中国その他の地域でみられる事例とは異なり、この会社には10 社を越えるブランド企業が顧客としてついており、どこか1 社に特に依存しているということはありません。したがって、原材料が販売価格の50%に過ぎないことを読み取っても、さして驚きはしませんでした(取引先1 社に依存しきっている場合、価格はぎりぎりまで絞られて、原材料費が売上に占める割合はもっとずっと高くなることが予想されるはずです)。売上のその他15%は自社コレクション、自社ブランドからのものであり、これは10 店舗の直営店と4 つのフランチャイズで販売されています。これらは全て、その小さな国ローカルのものです。

教科書的な事例だ、と思いました。私が確認したのは、この会社の製造リードタイムが2 ヶ月であることと(アパレル業界では非常に一般的です)、そうです、1 シーズン分全部を1 つのバッチで製造しているということ、たったそれだけです。それから、各クライアントが全てそれぞれ独自のコレクションを持っていること、その結果として集約はできないことも確認しました。そうなればテンプレートは明らかです。顧客ブランド企業が気づいてくれれば間違いなく、VMI(ベンダー主導型在庫管理)は歓迎されるでしょう。事実上リスクは全くありません。というのは、既存の大手顧客を3 社か4 社説得すれば十分であり、そうすることで望むだけ売上を増加させることができるのです。もちろん、顧客がVMI のもたらす驚くべき効果に気づいて、その結果さらに多くの仕事が受注できるようになるには1 シーズンか2 シーズンはかかるでしょうけれど。

スポーツ衣料製造に関しては、実質的にセットアップはありませんから、リードタイムを1 週間未満に切り詰めることは簡単なはずです。各顧客全ての中央倉庫への配送に要するのは、わずか数日です。VMI を提供することによって素晴らしいパフォーマンスを実現するのは朝飯前のはずでした。

製造能力の増強は容易です。製品縫製のための廉価労働力不足などありませんし、工業用ミシンは何の変哲もないものです。原材料費が販売価格の50%ということなのでバイアブル・ビジョンは比較的簡単に達成できるように見えます。何といっても4 年あるのです。さあ、一丁あがり。

けれど、4×4 のセッションを通じて、中心エレメントが誤っていたことが判明しました。原材料費は売上の50%ではなく、75%だったのです。おわかりでしょうが、これでは全体像が全く違ったものになります。具体的にいってみましょう。原材料費が50%であれば、バイアブル・ビジョンを達成するには販売量を3 倍にしなければなりません。既存のアクセス能力と物流に導入する相当の改善(A プラントです)を念頭におけば、必要となる販売量の増加のためには、直接労働力の管理可能な増加(~50%以下)だけで済むことになります。しかし原材料費が75%であるのならば、バイアブル・ビジョンに達するには係数を5 として販売量を増加させねばなりません。まったく同じ現実的な仮定の中で、直接労働力を約150%増やす必要がでてきます。ここまでの大幅増には、監督、管理、その他の部門の増強が必要になるでしょう。これはこの会社の業務費用に無視できない影響を与えてしまうはずです。販管費の増加を埋め合わせるため、そしてもともと出発点のマージンが小さいため、売上をさらに増加させる必要が生じます。悪循環は明らかです。この悪循環から抜け出す唯一の方法は、売上を増加させるだけでなく、同時にマージンを十分に増加させる方法を見出すことです。

ここで、2 つの異なる問題に答えねばなりません。再びこんな袋小路に突入してしまうことを避けるため、いったいどうしてそういった基本的データが誤っていたのかを知らねばなりません。そしてブランド企業下請け業者に対するバイアブル・ビジョンを私たちが持っているということを確認するためには、より興味深い質問に対して、回答を見出さねばなりません。マージンを増加させる実行可能な方法はあるのでしょうか。

最初の問題に関しては、いくらもかからずに誤りの発生源が明らかになりました。この数字は財務諸表に由来するものであり、したがってこれは2 つのチャネルからの売上の平均を表したものだったのです。もう一つのチャネル、つまり直営店舗での直販は、比較的小さいもの(わずか15%)であるとはいえ、原材料費の平均パーセンテージに大きな影響を与えていたのです。単純に直販チャネルだけをとれば、TVC(総変動費)は50%をはるかに下回ります(直販チャネルのマージンは、ブランドの極めて大きな利幅と店舗のかなりの額の利幅から成り立っています)。もうひとつ数字を歪めていたのは、縫製工に対して出来高で支払いを行っていたことで、その結果、ほとんどの直接労務費が(TOCの定義によって)原材料費に含まれてしまうからでした。

さて、誤りの発生源はわかりました。けれど、だからといってより興味深い質問への回答に手がかりが見つかるわけではありません。どうすればマージンを増やせるのでしょう。


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