2006 年2月3日
居心地のいい領域
© Eliyahu M. Goldratt, 2007

世の中にはオープンな姿勢の人と保守的な人がいる、などと分類したことはありませんか。アクション指向の人と、ぐずぐず先送りにする人、という分類はどうでしょう。組織を変革に導こうと30 年も苦闘すれば、こういった分類が頭の中に深く染み付いて、自分の行動にずいぶんと影響を与えてしまっているような気がします。私には、どうも早い段階で、トップ経営陣を分類箱に整理して、その会社の仕事を引き受けようかどうかについて考える傾向があるようです。今回の監査訪問は、そういった分類が大きな誤りにつながりやすいということを否が応でも気づかせてくれるものでした。そんな過激な結論にどうしてたどり着いたのか、説明しましょう。

この会社は、日用消費財(Fast Moving Consumer Goods:FMCG)をインドで生産しています(例えば歯磨粉は日用消費財であり、電動歯ブラシはこの分類から外れます)。特にインドという国名をあげたのは、インドでの事業経験のない多くの人(3 年前まで私もそうでした)にとって、この国のスケールを想像するのは難しいからです。おそらくインド国内のFMCG 店舗数をあげるだけでも十分理解できるのではないかと思いますが、その数なんと8 百万です。いえ、誤植ではありません。インド国内のこのタイプの店舗数は、乳幼児を含めた私の国の国民総数よりも多いのです。今回の会社は、中堅企業です。市場の10%弱ですが、それでも広大なインド市場においては製品を、250 万の小売店に届けために2,000 の販売業者に卸しているということになります。

バイアブル・ビジョンの実施ではたいていそうなのですが、この会社でも手をつけたのはまず生産でした。成長を追い求めるあまり、会社は危なっかしい状況に踏み込んでいました。ボトルネックを広げようとするのではなく、半製品の40%を外部から仕入れるという近道を選んだのです。*

*この状況がどれだけ危なっかしいのか理解するには、自動車エンジンを生産する企業を考えてみればいいでしょう。エンジンの核心部はシリンダです。ここでこの会社が生産するシリンダ数を制限するボトルネックがシリンダ生産にあるとして、それがこの会社の販売可能エンジン数を制約しているとします。近道は40%のシリンダを競合他社から仕入れることでしょう。この近道をとることで、この会社は競合他社に命運を握られてしまうことになります。

この状況を正すためには、ボトルネック生産を増強する方法を見つけることが不可欠です。『ザ・ゴール』で既に説明したTOC の標準の技術を用いることで、プロジェクト開始から6 週間、ほとんど投資もなしに、状況は全4 工場で逆転しました。この半製品を仕入れる代わりに、他の製造業者に対して販売するようになったのです。

そして勢いをとめることなく、バイアブル・ビジョン計画の次の段階へと進みました。生産と販売の両部門をもつ多くの企業同様、この会社にも工場倉庫はありませんでした。生産されたものは全て、その日のうちに30 ある地域倉庫群のいずれかに発送されるのです。彼らの活動のスピードは速く、いくらも経たないうちに、工場に倉庫が設置され、100 近いSKU(在庫保管単位)の各々に関して、適量の在庫が保管されるようになりました(各工場の間には処理能力に互いに重なり合う部分があるので、工場の倉庫群は1 つの仮想倉庫として管理されました)。

そしてさらに次のステップに進みます。工場倉庫から、地域倉庫群全体への発送を管理する、補充モードのオペレーションを実施しました。ご存知のようにこれは単にコンピュータのシステムを変更するということに止まりません。管理職の責任範囲を変更するという困難で神経を使う難題が関わってくるのです。地域倉庫の管理責任者は、もはや采配を振るうことはありません。彼らはもはや工場に対して発注をかけないのです。いまでは、各地域倉庫から卸売業者への出荷に合わせて、システムが自動的に地域倉庫に補充を行います。さらに、倉庫管理責任者が、担当地域倉庫の目標在庫レベルを決定することもありません。ディストリビューション用のTOCバッファ・マネジメントのルールに則って決定されるのです。地域倉庫の管理責任者の職務範囲は、担当倉庫のオペレーションが適切に行われているかどうかを管理するということだけに限定されるのです。

在庫は減少し、一方で、品不足はほぼ解消しました。そして、このステップの完了後、数ヶ月たたないうちに、このシステムの本当の堅牢性が、全社に対し如実に示される出来事がありました。モンスーン時期に、洪水で、ある地域倉庫の一つに保管されていた商品のほとんどが、ダメージを受けてしまったのです。以前なら、そういった不幸に見舞われたら、その地域の商品供給は壊滅的な打撃を受けたでしょう。ところが今回、地域倉庫管理責任者の書いたメモによると、被害は驚くほど軽微で、1 週間たたないうちに全てが正常に復帰したというのです。

上記全てに加え、その結果としての売上10%増は、バイアブル・ビジョン計画の開始から5 ヶ月をわずかに切る期間で達成されました。さて、この会社の経営陣をどのように分類すればいいでしょうか。オープンな姿勢の人、アクション指向の人、結果重視の人でしょうか。この場合、そんな形容詞では弱すぎると、私は思います。

けれど、これでお話は終わりではありません。バイアブル・ビジョン実施の次のステップは、皆さんご存じのように、内部のディストリビューションの補充モードのオペレーション(工場倉庫-地域倉庫間)を外部へのディストリビューション(地域倉庫-卸売業者)へと拡大していくことです。ためらいの最初の兆候が現れたのはこの時点でした。


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